【第20話 日向の絶望】



日向ネジの人生において、いくつかのターニングポイントと言える衝撃的な事件が存在した。
一つは父親である日向ヒザシが日向ヒアシの代わりに自殺させられたこと。
この時日向ネジの心に日向宗家への恨み、日向一族に根付く宗家と分家という身分制度への憎しみが宿った。
もしこの憎しみの心を抱えたまま育てば第二のうちはイタチになっていただろう。

一つは秋道チョウジとの出会い。年下でありながら自分以上の努力をもって自分より遥かに強い存在。
ショックだった。それはそれはショックだった。
相手が天才なら諦めが付く。相手が血継限界の持ち主なら諦めが付く。だがどちらでもなかった。
秋道チョウジは天才ではない。血継限界を持っているわけでもない。さらには教えを受ける師さえいない。
伝統に裏付けられた一族でも無いのに自分が遥かに及ばないという屈辱。

一つは秋道チョウジの強さの秘密はただただ修行という名の自己練磨の結果だったこと。
己が憎み、それでも誇りを持つ柔拳が本体の10分の1程度の実力しか持たない分身にすら通用しない。
秋道チョウジの真似をして同重量の重りと逆さ状態で、しかも指だけを接地するという木登り方法を行ってみたが1mも登ることができなかった。
努力の天才だと認めるリーでさえ、チョウジがこなしていた木登りが出来なかったのだ。
元気だけが取り柄のリーがブランコに乗りながら黄昏ている姿に同情し、柄にも無く慰めてしまったぐらいだ。

一つはその秋道チョウジが里を棄てたと聞かされた時。
自分達は秋道チョウジにとって挨拶さえされない程度の存在だと思い知らされた。
捕獲任務と言われて秋道チョウジを追いかけながらも、自分達は恐らく遠くから眺めることしか出来ないだろうと思っていた。
秋道チョウジなら上忍師(下忍を指導する上忍のこと)であるガイに勝つのではないか?とさえ思っていた。

一つは自分より強いと思っていた秋道チョウジでさえ大蛇丸という強者に敗れて捕らえられてしまったということ。
ネジの中にあった『努力』に対する価値観が崩れ去ってしまった。
努力も修行も全て過程であって、現実に問題となるのは今その時の『強さ』だけなのだ。
柔拳も修行も全ては強さを高める為のものでしかない。
そして現実は常に『弱肉強食』というどうしようもなく非情な世界だった。

ネジの中に残った諦観とも言える弱肉強食の理論は、チョウジも父親も弱いから踏みにじられた。という思いに変わり、自分も弱いままでは踏みにじられるという恐怖に変わった。
度重なる価値観の崩壊と再構成は確実にネジの精神のバランスを失わせていた。

中忍試験予選

日向ヒナタは日向ネジと戦うことで今までの自信の無い自分から脱皮しようとしていた。
それはうずまきナルトのように前を向いて行きたいという思いと、願わくばうずまきナルトと共に歩きたいという想いからである。

気弱で自信の無い自分を変える為の戦いにもっとも相応しい相手、日向ネジが目の前にいる。
ネジの舌鋒による心理戦を愛しい人への想いで乗り越えて、柔拳の構えを取る。

この戦いで変わってみせる。

ヒナタの自分を奮い立たせる為の言葉・・・それは一般的には誉められるべき事柄だろう。 だが、日向ネジに対しては途轍もない侮辱の言葉であり、ヒナタにとって最悪の事態を招くこととなった。

「なめてんじゃねーぞ!!!メス豚がぁ!!」

突然のネジの暴言に会場にいた全員が目を剥く。

「キョトンとするな!!!軽く言ってみたか「勝負です」って!!
わかってんのかっ!?俺を!俺との戦いを!新しい自分への踏み台にするって宣言したんだぞ!!
俺より弱いテメーが俺を踏み台にして高いところへ飛び上がろうってのか!?
なめやがって!なめやがって!あああああああああ!!!!」

頭を抱えて呻き声を上げるネジに誰もが呆然となった。

ネジは死の森での試験で他の里の下忍達を倒していたし、戦いの果てに殺されたであろう者達の死体も見ている。
ほんの少しの期間とはいえ、弱い者が踏みにじられる現実を生きてきたのだ。
強い自分が弱いヒナタの踏み台にされる。踏みにじられる。
ヒナタの言葉はネジの価値観を真っ向から否定することであり、ネジの精神は度重なる価値観の崩壊に耐えられなかったのだ。

「ネ、ネジ兄さん?」

ネジの隙だらけの身に一撃を入れることも可能だったが、ヒナタにはネジの狂態を理解できずにいた。
この瞬間だけがヒナタにとって最大にして最後チャンスだったのに。

ネジの呻き声が止んだ。ほんの一瞬の静寂。それは津波の前の引き潮にも似て・・・
ネジから発散されていた強烈な怒りと恐怖は狂気を孕み・・・研ぎ澄まされた殺意に変わった。

殺気に気付いた審判や上忍達が試合場に飛び込む前に凶行は済んでいた。
瞬身と見まがう速度で突進したネジの両手が、柔拳の構えを取っているヒナタの左手を挟む。
グチャとボギンという音がしてヒナタの左手に衝撃が走り、またネジが消える。

ヒナタが左手を確認しようとした時、ネジは既に背後にいてヒナタの肩越しに両の掌でヒナタの顔面を覆った。
抱きしめるように、抱き潰すように。

ザリュグチャジュババゴキベキ

上忍達がネジをヒナタから引き剥がした時には、ヒナタの顔面は滅茶苦茶にされていた。
あまりの痛みにヒナタが気絶していたのは彼女自身にとって幸福だったかも知れない。
鼻も唇も瞼も歯も、目も、皮膚さえ失った痛みを気絶している間だけは感じなくて済んだのだから。

予選終了後ネジは日向一族に捕らえられ、宗家の屋敷内にある独房に軟禁されていたが火影の命を受けたガイによって助け出された。
ガイはネジに対して何かを話しかけていたが、ネジは何の反応も示さなかった。

そしてそのまま施設に収容された。
ネジは日向の姓を剥奪され、白眼も封印されてカウンセリングを受け続けている・・・だが、日向一族はネジの再帰を許さないだろう。



俺はイノにしたのと同じような説得をしに日向ヒナタの牢を訪れた。
彼女は木製のベッドの上、毛布を座布団のようにして座っていた。 俺が日向ヒナタを見た最初の感想は、

「・・・うわぁ・・・」

だった。
ヒナタの左手が包帯に包まれているが、膨らみからすると人差し指と中指が無い。
顔は包帯でぐるぐるになっている。ミイラ男と違うのは両目の部分にまで巻かれているところか。

鉄格子の傍に箱があり、その箱には診断書が入っている。
診断書を手に取り確認してみると、顔面裂傷+左手人差し指と中指の切断とかかれていた。

そして診断書に貼り付けられていたヒナタの顔面の写真は・・・Ogrish.com並みの物だった。
原因は・・・日向ネジとの試合にて負傷か・・・・

こう・・・例えるなら人の顔をミキサーに一瞬入れたらこうなるという見本だった。
筋肉の断裂、皮膚の捩れ、砕かれた歯や骨の破片が複雑に混ざりこんでいて修復は非常に困難。
その困難さを思うに、綱手並みの医療忍者じゃないと元には戻せないレベルである。

この異常なまでの破壊は・・俺のせいなんだろうなぁ・・・
恐らくだが、俺がネジに見せてやった掌から出すチャクラの刃を回転させる技。受けると同時相手の手足を切り裂くための技を、攻撃として用いたんだろう。
あの技は殺傷力が低いものの、顔、それも女に対してならば別の意味で殺傷力が上がる。
文字通り女の価値を殺してしまうのだ。

ヒナタとのハーレム交渉は実にあっさりと済んだ。歯や唇が無い為聞き取り辛くはあったが。

交換条件はヒナタの顔面と指の治療の成功だ。
これにはヒナタ自身も木の葉の医療関係者から治療が困難であると伝えられていたことや、白眼と指の喪失という忍としての未来が存在しないと考えていたからである。

というか、ヒナタは今にも自殺しかねないほど投げやりになっていた。
この年頃の女の子なら顔に復元できないぐらいの重傷を負えば、自分の未来に絶望してしまう。
聞く所によると、顔を壊されて以来面会謝絶にして病室に閉じこもっていたそうだ。
それもそうだよな。今の自分を誰にも見せたくないし、慰められるのも辛い。

確かに元に戻すのならば綱手クラスの医療忍者が必要だが、大蛇丸がやらせようとしている他人の部品を体内で作る実験が成功すれば治すことが出来る。
いや、治すのではなく代えるのだ。俺が作り出した顔面に。

ちなみに日向一族ともなると敵に捕まった場合自殺か能力封印がされるはずだが・・・そこら辺を聞いてみると、医療施設に居た時から既に日向家の一門会議でヒナタの今後が話し合われ、日向宗家の血を残す為に優秀な日向の忍との間に子を作り続ける任務に付く事が決定されていたからだという。
勿論ある程度顔の修復が済んでからとされていたが。

うーむ・・・名家の一族ってのも世知辛いのう。
そんな未来しかないと解っていたからこそ、俺のハーレム入りも大した心理的抵抗も無く受け入れることが出来たのか。

ヒナタからすれば抱かれる相手が俺に代わっただけだし、上手くすれば顔と指が元に戻る・・・そんな打算の結果だろうが、俺はボテ腹のヒナタをナルトに見せ付けるという妄想に暗い喜びを感じていた。
(この肉体年齢で父親になりたいとは思っていないが)


中忍試験本戦に到るネジ


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